2012年9月29日土曜日

没办法

たぶん性格と関係あるように思われるが、私が日本語でよく使う言葉に、

「しかたがない」

というのがある。

何らかの事情によりもう結論は決まっているから、これから頑張っても
無駄である、ということを伝えたり、そのことを認識している相手を
慰めたりする際に使う言葉である。

個人でできることには限界があるのだ、という厳しい意味があり、
頑張ろうとしている相手に言う場合は非常にNegativeな言葉である。

英語では同様の言い回しは存在しないように思う。

英語圏でもまあまあ一般的な、フランス語の「セラヴィ」が
近いニュアンスを持っているかもしれないが。


アメリカの場合は「アメリカ人はpositiveだから」という説明ができるかもしれないが、
UKの場合、イギリス人はNegativeで皮肉っぽくてアメリカ人とは対照的だし、
似たような使われ方をする言葉があってもよいのでは、とも思うのだが、
個人主義が根幹にある欧米は考え方の成り立ちがそもそも異なるのかもしれない。


逆に、英語での印象深い言葉として「通常ならあきらめるような状況なのに、
何らかの事情(世の中とか、社会とか、学校とか)に反抗して頑張る」際に使われる、

"I know what I'm doing"

というのがある。

心配して「それはやめたほうがいいんじゃないか?」とアドバイスを
くれる相手に対して「自分のやっていることはわかっていて、
相応の覚悟を持っているから、もう止めないでくれ」
という意味の言葉だ。
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さて、中国語には「しかたがない」と全く同じ言葉がある。

没办法(没有办法)

方法(办法)が存在しない、という、字面上も「しかたがない」そのものであり、
意味的にも使われ方も日本語とほとんど同じだと思う。

つまり、頻繁に使われる。特に言い訳として。

「なんで遅刻したんですか」
「渋滞だったんです。没办法」

ここで、
「渋滞なんて毎日してるんだから、その分早く家を出てください」
と即座に返せるような会話能力を身につけたい。いや、マジで。

2012年9月22日土曜日

ハイコンテクストとローコンテクスト (3)

だんだん本来の意味からずれた話になってきているが、もう一つ書いてみる。

アメリカ赴任経験がある人が言っていたことだが、

 ■アメリカの会議では、たとえ変な質問をしても日本のように「なんだお前は」と
  白い目で見られることはなく、普通にきちんと答えてくれるので、発言しやすい

ここで「変な質問」というのは、その分野の基礎知識があれば絶対しないような
質問のことだ。

こういう場合日本では、言葉に出さないまでも「素人はこの会議に出るな」
「顔を洗って出直して来い」という表情とともに白い目が返ってくることになる。

アメリカではそういう質問でも普通に「それはね...」といって
きちんと答えてくれる、ということだ。

これは、会議参加者が背景やそれまでの経緯を共有していない(ローコンテクスト)
ことに対して寛容だ、ということで、ローコンテクスト社会であればこそ、
という感じがする。

私は、こういった点に関しても中国は日本よりもアメリカにずっと近いと思う。
少なくとも仕事上においては、変な質問をされること対して中国も寛容なのだ。

ちょっといい例が思いつかないが、他部署もしくは他社とのMTGで、

「ここでこれ聞くか? この仕事しててこんなことも知らないのか?」

と思われる発言が出ても、他の出席者は軽蔑の色を浮かべるでもなく普通に淡々と
話をつづける、という場面に何度も遭遇している。

中国もアメリカ同様「ローコンテクスト的な環境に対しても寛容」なのであろう。

というか、日本が「非寛容」過ぎる、というほうが正しいのかもしれない。

以前ここに「中国語は日本語と英語の間」というのを書いたことがあるのだが、
今回のコンテクストとかいう側面から考えても、

「中国語(の話される環境)はは日本語(の環境)と英語(の環境)の間」

ということができるのではないだろうか。

2012年9月15日土曜日

ハイコンテクストとローコンテクスト (2)

この、ハイコンテクストとローコンテクストの比較の中でよく語られることに、


■日本語(の話される環境)はハイコンテクストだから多くを話さなくても通じる
■英語(の話される環境)はローコンテクストで何でも言葉にするから話す量が多い

というのがある。

だが、このロジックは、中国では成り立たないように思われる。

中国には無口な人はいない、と思われるぐらい中国の人はみんなよくしゃべる。
仕事のMTGでも、とにかくしゃべり続ける人が多い。

やはり、人口が多くて弱肉強食で競争が激しい環境だと、
「いかに自分を主張するか」が重要なので、「相手に時間を与えないぐらい
話し続ける才能」が淘汰されずに残ったから、なのだろうか。

※日本でも時々「相手に話させずに話し続ける才能」を持った人がいるが、
一般的に周りの人の評判はあまりよくないように思われる。

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話はちょっとずれるが...

中国の日常生活(仕事ではなく、買い物とか、レストランとか)で常々感じることは
「遠慮したら負け」と「主張しないものは決して得られない」。

「主張しないものは決して得られない」は欧米も同じだが、
「遠慮したら負け」は欧米とはかなり異なるように思われる。

UKでは、見るからに労働者階級のお兄ちゃんでも、公共の場所での礼儀は
きちんとしていて、「お先にどうぞ」という譲り合いが当然のように
行われる(もちろん例外はたくさんあるが)。

だが、上海でそういうことをやるのは欧米人だけだ(もちろん例外はたくさんある)。

※もちろんUKでも仕事とかでは「遠慮したら負け」という部分は当然あるのだが、
いまは、あくまで日常生活上の話である。

※一方、中国人も友達など知ってる人に対してはある意味欧米以上に
「お先にどうぞ」という態度になる。

なんかこう、マクドナルドでハンバーガーを買うのにも
「人を押しのけないと買えない」のである。並んでいても、
後ろから来た人が次から次へと前に割り込んでくるので、
永久にカウンターに到達できない。

仕方なく後ろから来た人をスクリーンアウトして横入りされないようにする。

しかも、そうしてようやくカウンターの前に来ても、
ちょっと隙を見せると後ろから大声で注文されたりする。
マックの店員も、それに対して「あなたは次だから、ちょっと待て」とも言わず
だまって注文を受けてしまったりする。

だから、カウンターに来た瞬間に注文できるように準備もしないといけない。

ハンバーガーを受け取るころには、もうへとへとに疲れてしまっている。

こういう世界で生まれて育ったら誰でも、生きていくために適応して
混んでいるマックでも、頑張らずに買い物できるんだろうな、と思う。


たまに「ちゃんと並んでる人がいるなー」と思ってみてみると必ず外国人だし。
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まったくコンテクストとは関係ない話をたくさん書いてしまった。

中国語(の話される環境)がハイコンテクストなのは確かだと思う。
日本語ほどではないが、日常会話ではいろんな要素が省略されることも多いし。

また、似た発音の単語が非常にたくさんあるのに、それを正確に聞き分けられるのは、
文脈(コンテクスト)の助けがあるからこそだと思う。

しかし、そのことと実際に話す量が多いかどうかは必ずしも関係はないと思う。
人間は「必要最低限なことだけ話す」わけではないのだから。

2012年9月8日土曜日

ハイコンテクストとローコンテクスト (1)

よく言われることに、日本語(の話される環境)はハイコンテクストで、
英語(の話される環境)はローコンテクスト、というのがある。

コミュニケーションにおいて、言語そのものにどのぐらい依存するか、
という感じだろうか。

日本では話された文自体とともに、話された状況(コンテクスト)も
併せて聞き手は理解する必要がある。

■日本のレストランで「水がないんですけど」といえば、水を持ってきてくれる
■アメリカのレストランで同じことを言うと「...だから何?」と聞き返される

とかそういうことだ。



中国はどうかというと、日本並み(あるいは以上)にハイコンテクストなケースと、
そうでもないケースが混在している、ように思われる。

仕事での例なのだが、例えば提出されたレポートに対して、
「ここに書いてあるこの部分は、xxxという意味か?」
とメールで質問すると、それには答えずに「修正しました」と言って、
その部分を書き直したレポートを送ってきた人がいた。

私は「そこを直せ」という意図を持って質問したわけではもちろんなくて、
単純に質問しだだけだったのに。

それに対して、いきなり修正版レポートを送ってくるのは、
考えすぎ(ハイコンテクストすぎ)である。

こういうのは日本でもあまり起こらないケースだと思う。

一方で、その同じ人が、別のケースでは文字通り質問されたことに答えるだけ、
という場合もあるので、どういう基準なのかちょっとよくわからない。




もちろん、これは私個人、あるいはその人個人の性格に依存する部分が大きいので、
いきなり「だから中国は」みたいな話に拡大するつもりもないのだが、
結構ギャップを感じるのは確かである。

ちょっと気になるのは、これが日本とか中国とかあんまり関係なくて、
単なる年代ギャップ(私は40代後半、その人は30ぐらい)なのかも、ということだ。

つまり「結局私が年取っただけってことじゃないのか」という懸念が拭えないが、
この辺は、いつか日本に戻って仕事する機会があるときに確かめてみるしかない。

2012年9月1日土曜日

台風

もう1ヶ月近く前の話だが、台風11号が上海を直撃した。

もう5年上海に住んでいるが、台風がほぼ真西に進んできて、
上海に来たのは初めてのことだと思う。

たいていは、台湾付近を通って北よりに進む。

上陸するとしても福建省あるいは浙江省あたりで、
そこから北上して近づいてくるので、上海に来たころには、
勢いはずいぶん弱まっている。

今回は海からいきなり上陸するコースで、勢力を保ったままやってきたので、
雨も風も強いことが予想された。

気象局は前の日の夜から「オレンジ色警報」をだし、
うちの会社は火曜の夕方に次のような指示が出た。

---注---
日本は「注意報」「警報」というように名称で区別するが、中国は色で表し、
青、黄色、オレンジ色、赤、という順番で深刻さの度合いが増す。
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「水曜は警報情報をチェックし、オレンジ色以上の警報が出ていたら出社せず
 自宅など安全な場所で待機してください」
「警報が解除されたら、2時間以内に出社してください」
「ただし、解除されたのが15時以降だったら来なくていいです」

えっ、と思って上海気象局のWebサイトを見に行ったら、
繋がらなかった。きっと上海中の人がアクセスしてパンクしてたのであろう。

この「待機指示」は(強制力は不明だが)上海政府からのものだったようである。

ちょっと前に北京で史上最大の降雨があって、洪水で被害が出たこともあり、
上海政府も慎重に対処したものと思われる。

しかし「警報解除後2時間で出社しろ」というのは、
警報解除を誰かが電話で教えてくれるわけじゃないので、結構厳しい要求である。

■上海テレビが画面の右下に警報通知をだしているのをずっと見続ける
■天気情報のWebサイト(気象局以外の天気サイトも警報情報はだしている)を
チェックし続ける

などしていないと、情報を得る手段がない。

朝は通常出社同様に起床して警報チェックしないと遅刻になっちゃうかもしれない。
(会社の場所にもよるが、1時間以上かけて通っている人は結構いる)

朝警報を見て出社不要だったとしても、そこでまた寝てしまったりしたら、
もし直後に警報解除された場合「2時間以内」に出社できなくなってしまう。
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水曜は結局休みになり、警報が解除されたのは木曜の朝5時ごろだったそうだが、
やはりというか、寝過ごして遅刻して半休を取る羽目に陥ってしまった人がいた。

この「朝の5時ごろ警報を解除する」というのも、なんというか、
また会社休みにして(あるいは遅刻を容認して)経済への影響を与えることと、
台風被害を出さないこととの妥協で決められた、という感じもする。

もちろん、それが良くない、ということではないのだが。